夜のドライブ

ドライブ

夜の帳がそっと降りるころ、私はハンドルを握り、二人の小さな旅人を後部座席に乗せて家を滑り出た。

長男は夜のドライブが大好きだ。窓を少しだけ開けると、ひんやりした風が頬を撫で、たんぼ道からは遠慮がちなカエルたちの合唱が聞こえてくる。長男は「気持ちいいね」と目を細め、その声さえ風に溶けるように静かだった。やがて、ゆるやかなカーブを抜けた頃には彼の呼吸が深くなり、眠りの国へ落ちていった。

 けれど、長女はまだまぶたの奥に夜の明かりを映している。少しだけ足を延ばし、闇を縫うように車を走らせた。道路脇の街灯がリズムを刻むたび、彼女の横顔に淡い光が差しては消える。十数分の追加の旅の果て、長女もようやく瞳を閉じた。

 静かな車内。そのまま駐車場へ滑り込み、ギアをリバースに入れてふと振り返る。──闇の奥で、長女の瞳がまるで夜空の星のようにぱっちりと瞬いていた。さっきまで眠っていたはずの彼女が、何事もなかったかのように私を見つめ返す。その澄んだまなざしに、思わず笑いがこぼれた。

 けれど家に戻り、布団へ運ぶと、長女はすっと眠りに落ちた。息子のすやすやとした寝息、娘の穏やかな寝顔──夜のドライブが連れてきた静寂が、家の中にも満ちていく。

 子どもたちの眠りのかたちは、それぞれ違う。だけどその違いこそが、かけがえのない光景として胸に刻まれる。風の匂い、カエルの歌、闇の中で光る小さな瞳。すべてが、今夜だけの物語だった。

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